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笹幸恵
2022.9.27 12:03皇統問題

皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈3〉

平成17年報告書と令和3年報告書の読み比べ。
いよいよ議論の中身に移ろう。

〈過去2回のブログはこちら〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈1〉
皇統問題に関する有識者会議報告書読み比べ〈2〉

まずは令和3年報告書から見ていこう。
驚くなかれ、ここでは本題に入った途端、
皇位継承の問題より皇族数の確保が喫緊の課題として、
そちらに方針転換しているのだ。


【4.皇位継承と皇族数の減少についての基本的な考え方】
附帯決議で示された課題は、皇位継承の問題と皇族数の減少の問題の二つ
であります。
皇位継承については、先に述べたとおり、現在、皇位継承資格者として、
秋篠宮皇嗣殿下、悠仁親王殿下及び常陸宮正仁親王殿下の三方がおられます。
会議では、ヒアリングを通じて、これまでの皇位継承の歴史や伝統の重みに
ついて改めて認識を深めることができました。このような皇位継承の流れの
中で、将来において、皇位が悠仁親王殿下に受け継がれていくことになりま
す。
ヒアリングの中では、皇位継承のルールについて悠仁親王殿下までは変え
るべきでないとの意見がほとんどを占め、現時点において直ちに変更すべき
との意見は一つのみでありました。
皇位の継承という国家の基本に関わる事柄については、制度的な安定性が
極めて重要であります。また、今に至る皇位継承の歴史を振り返るとき、次
世代の皇位継承者がいらっしゃる中でその仕組みに大きな変更を加えるこ
とには、十分慎重でなければなりません。現行制度の下で歩まれてきたそれ
ぞれの皇族方のこれまでの人生も重く受け止めなければなりません。
会議としては、今上陛下、秋篠宮皇嗣殿下、次世代の皇位継承資格者とし
て悠仁親王殿下がいらっしゃることを前提に、この皇位継承の流れをゆるが
せにしてはならないということで一致しました
悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承について具体的に議論するには現
状は機が熟しておらず、かえって皇位継承を不安定化させるとも考えられま
す。
以上を踏まえると、悠仁親王殿下の次代以降の皇位の継承については、将
来において悠仁親王殿下の御年齢や御結婚等をめぐる状況を踏まえた上で
議論を深めていくべきではないかと考えます。
一方、現在、悠仁親王殿下以外の未婚の皇族が全員女性であることを踏ま
えると、悠仁親王殿下が皇位を継承されたときには、現行制度の下では、悠
仁親王殿下の他には皇族がいらっしゃらなくなることが考えられます。会議
においては、このような事態はどうしても避けなければならないということ
で意見の一致を見ました。そのためには、まずは、皇位継承の問題と切り離
して、皇族数の確保を図ることが喫緊の課題であります。これについては、
様々な方策を今のうちに考えておかなければなりません。
以下、この「皇族数の確保」について、会議として議論したことをお示し
します。
(傍線:笹)

ここでも作文について修正を入れたくなるところだけど、
それはさておき、問題なのは、
ヒアリングを行った結果、悠仁さままでの皇位継承の
流れはゆるがせにしてはならないと結論づけていること。
さらにその先については、機が熟していない、
かえって皇位継承の不安定化を招きかねないとしている。
これを先送りと言わずして、何と言おう。

そして、あろうことか皇位継承の問題を切り離して、
論点を「皇族数の確保」にすり替えているのである!
特例法の附帯決議では、
「安定的な皇位継承を確保するための諸課題、
女性宮家の創設等について」検討せよ、となっている
にもかかわらず、論点のすり替え、矮小化、
この有識者会議は甚だ力不足であることを
露呈させていると言わざるを得ない。
しかも、ヒアリングの結果を鵜呑みにするなら、
会議に集まっている「有識者」がいる意味あるの?

一方の平成17年報告書はどうか。
「Ⅲ.安定的で望ましい皇位継承のための方策」
として、まずは明治典範と現行典範を踏まえ
皇位継承資格についておさらいしている。
①皇統に属すること
②嫡出であること
③男系男子であること
④皇族の身分を有すること

このうち、①と④は当然の要請であり、
②は国民の意識等から維持するのが適当、
したがって焦点となるのは③だという
結論を導き出している。

その上で、
(1)男系継承の意義等として、
典範制定時に男系男子限定となった論拠と、
男系継承の意義についての代表的な考え方を
紹介している。
意義については、賛否両論。
「男系継承は確立された原理であるから、
実質的な意義は無意味」
「女系になったら皇統が配偶者の家系に
移ったと観念されるからそれを避けるため」
「中国の影響により形成されたものであり、
必ずしも我が国固有の概念とは合致しない」
「武力等を背景とした伝統的な男性優位の
観念の結果によるもの」
など。

これらを踏まえて、報告書は次のように記している。

種々の議論があるが、これらは個人の歴史観や国家観に関わるも
のであり、それぞれの見解の当否を判断することから皇位継承資格の検
討に取り組むことは適当ではない。したがって、ここでは、これまで男
系継承が一貫してきたという事実を認識した上で、過去どのような条件
の下に男系継承が維持されてきたのか、その条件が今後とも維持され得
るのか、を考察することとする。 どうだろう。 令和3年報告書では、「ヒアリングで男系継承支持が 多かったから、悠仁さままでは継承順位は変えない」 と言っているのに対し、 平成17年報告書では、「男系継承の意義については さまざまな考え方があるが、個人の見解の当否を 判断するのは適当ではない」 「どのような条件で男系継承が維持されてきたか、 その条件が今後も維持され得るか」 という視点で考察すると言っているのだ。 ごく一部の意見に惑わされることなく(もちろん それは踏まえた上だけれども)、 方法論として、現実的に可能かどうかを 検討しようというわけだ。 非常に論理的である。 ちなみに9/20の産経新聞「国難日本」では、 千田恒弥記者の芝居じみた記事が掲載され、 それについてブログに書いた。 産経「国難日本」の記事は安倍へのおべっかオンパレード! ここでは触れていないが、千田によると、 安倍は有識者会議(令和3年のほう)のヒアリングで 綿矢りさが旧宮家の男系男子の皇籍復帰に 理解を示したことに着目し、 「幅広い世代に人気がある彼女が 公の場で理解を示したことは大きいよ」 と語っていたという。 人気者が白を黒と言えば黒になるのかね? どうせ国民には知識がない、 インフルエンサーが黒と言えば、皆が黒になびく と思っているのなら、随分と国民をなめている。 千田は男系原理主義者を勇気づけるつもりで 書いたのかもしれないが、悪しきポピュリズムの表れでしかない。 そのポピュリズムになびいたのが令和3年有識者会議。 男系継承を最初に支持しちゃったもんだから、 「安定的な皇位継承」の問題は脇に置かざるを得ず、 「皇族数の確保」でお茶を濁さなければならなかったのだ。 平成17年報告書と比べると、雲泥の差、 劣化は明らか。
(つづく)
笹幸恵

昭和49年、神奈川県生まれ。ジャーナリスト。大妻女子大学短期大学部卒業後、出版社の編集記者を経て、平成13年にフリーとなる。国内外の戦争遺跡巡りや、戦場となった地への慰霊巡拝などを続け、大東亜戦争をテーマにした記事や書籍を発表。現在は、戦友会である「全国ソロモン会」常任理事を務める。戦争経験者の講演会を中心とする近現代史研究会(PandA会)主宰。大妻女子大学非常勤講師。國學院大學大学院文学研究科博士前期課程修了(歴史学修士)。著書に『女ひとり玉砕の島を行く』(文藝春秋)、『「白紙召集」で散る-軍属たちのガダルカナル戦記』(新潮社)、『「日本男児」という生き方』(草思社)、『沖縄戦 二十四歳の大隊長』(学研パブリッシング)など。

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